はじめに

人間は年齢とともに老化が進み、20 歳の頃の若々しいつややかな肌も60 歳を過ぎるころには、深いしわが刻まれていきます。同じように脳内では記憶を司る「海馬」の萎縮がみられ、脳神経細胞が死滅していき、神経伝達物質であるアセチルコリンなどの量も減少していきます。
65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は推計15%で、2012 年時点で約462万人に上ることが厚生労働省研究班の調査で発表されました(2013 年6 月1日)。
認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いると推計され、65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”となる計算になります。
また、2025年には認知症の人は700万人を超えるとの推計値を厚生労働省は発表しています。
しかし、認知症に対して有効な治療薬・予防薬はほぼ皆無であるのが現状であり、その開発は急務であります。
現在、当研究室では、有効かつ有望な独自の認知症治療薬の開発に取り組んでいます。

認知機能と海馬の萎縮

海馬は脳において学習・記憶の中心的な働きをしています。正常な人でも海馬は年齢と共に萎縮し、下部のグラフのように認知機能スコアも急激に低下していきます。
このことから、60歳頃からは進んで認知症予防に取り組む方が良いとされています。

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認知症の原因として、アルツハイマ-病、レビー小体型認知症、ピック病等の神経変性疾患、あるいは多発性脳硬塞、びまん性白質梗塞等の脳血管性病変が挙げられます。
脳外科領域では慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症等が認知症の原因になります。
また、ヘルペス脳炎、アルコール・ビタミンB1 欠乏に起因するウェルニッケ脳症、ビタミンB12 欠乏症、甲状腺機能低下症等も認知症を引き起こします。
このような基礎疾患がなくても、年齢とともに脳が萎縮し、特に認知機能のセンターである海馬の萎縮が認知機能低下の主な原因となります。

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脳は複雑な神経回路を形成することによってその機能を営んでいます。
その基本となる構造がシナプス(神経細胞と神経細胞の橋渡し)で、このシナプスの活動(働き)が脳の機能を反映しています(右図)。ある情報が神経細胞に入力されるとその情報が電機信号に変換され、細胞体から軸索へと伝播されます。

シナプスには隙間(シナプス間隙)があるため、軸索の遠位端(シナプス前終末)に到達した情報を次ぎの神経細胞へ伝えるためにはその伝令役が必要です。
その伝令役となるのがシナプス前終末から放出される神経伝達物質で、その受取役を神経伝達物質受容体といいます。
神経伝達物質が次の神経細胞の樹状突起(神経後細胞)に位置する受容体に結合すると、受容体が活性化されて更に情報が伝達されます。

このように、シナプスの役目は神経細胞間の情報を橋渡しすることです。
従って、シナプスの働きが悪いと脳は正常に機能しません。
言い換えると、シナプスの数(働き)と認知機能は比例するといっても過言ではありません。
認知機能を改善させるためには、基本的にシナプス伝達を促進させることが必要です。
シナプス伝達を促進させる方法として、以下のこと等が考えられます。

  • ①シナプス前終末からの神経伝達物質放出を刺激する
  • ②神経伝達物質の分解を防ぐ
  • ③神経伝達物質の合成を促進する
  • ④神経伝達物質受容体の反応を増大する
  • ⑤膜上の神経伝達物質受容体発現数を増加する
  • ⑥神経伝達物質の再取り込みを抑制する
  • ⑦神経膠細胞から神経伝達物質放出を刺激する

また、脳萎縮の直接原因となる脳神経細胞死、特に酸化ストレス/ 小胞体ストレス誘導アポトーシスを防ぐ薬剤が、神経変性疾患にともなう認知症の根本的治療法・予防法になると考えられます。

先端生体情報研究機構 監修